わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という。

21トリソミー、ダウン症を持つ三人目のこども、のゆりとの日々。きょうだいブログ『あおとわたし』(https://aoinotediary.hatenablog.jp/)も始めました。

呼ばれて歩く。

のゆが、はじめてひとりで歩いてから1ヶ月半たった。最初は二歩。歯ブラシを持って仁王立ちしていたので、おもわず「おいで」というと、と、と、と二歩、わたしの方へ歩いてきた。わあ、歩いた歩いた、とおもいながら、「まだまだはいはいさせて体感を鍛えよう」とか、「足の準備がしっかりできてから歩かせたほうがいい」と、散々PTで聞いていて、歩行を促すような指導も全然取り入れていなかったのに、立っているのゆりを見て自分が思わず「おいで」と言ったことそのものが、おもしろい。やっぱり立っている子を見たらちょっと歩かせてみたくなるんだな。

 

翌日、マンションの中のかりんのともだちの親子が集まってごはんを食べていた。はしゃぎきったこどもたちが、ちびくろさんぼの虎のようにぐるぐると走り回って、のゆがその渦の中で立ち尽くしていると、かりんのともだちのアカリちゃんが「おいで!おいで!」と声をかけ、のゆはアカリちゃんに向かってとて、とて、と、それもやっぱり「おもわず」という感じで4歩、歩いたのだった。呼ばれて、歩く。歩けるかどうか試したいとか、歩いてみたいと言う様子ではまったくなく、ただ呼ばれたことだけに意識が向いているような、イエスキリストに「ついておいで」と言われて網を捨ててついていった漁師だったペトロみたいに、彼女はただ呼ばれて、歩いていった。

 

そのまま次の日は6歩、翌日は10歩と進んでいく…というわけではなく、歩いたことなんかまるで忘れたような顔をして暮らしていたのだけど、ふとした時に立ったままもじょもじょと足の指を動かして移動していたり、伝い歩きのくせか、横歩きを数歩していたりしていて、その足はもう、知らず知らずに彼女の体を、ちゃんと運び、始めていた。そして数日前、療育先で、立っている先生に向かって数歩歩き、一度止まってバランスをとってまた歩いて向かっていった(その「一度止まって」のときに、座ってバランスを取り直すのではなく立ったまま立て直しをしたのは、おそらくすごい進歩であった)。足に注意が向くのではなく、目的である先生だけを見て歩くので、目線が高い。姿勢も良くなり重心も高くなる。やはり、呼ばれて歩く、ということは、彼女の体を適切に動かしている。そして、それだけ足に集中しなくても動けるように、その足は、もう、準備ができているのだった。

 

今日は、棒にビーズを通す教具を嬉しそうに両手に下げ、そのまま教室の中をふんふんと数歩づつ、歩いて移動した。目的地はかなり背の高い大人のテーブルで、そこに教具を置いて満足そうに振り返った。着々と、のゆは、独歩と意識することもなく、独歩に向かっている。こうしたい、と彼女が思い描く光景が、彼女を呼んで、歩かせている。