のゆが、ずっと懸案事項だった、右側への寝返りができるようになった。おもちゃを取ろうとして手を伸ばしてそのままさりげなく、反動でも勢いでもなく。それはきれいな寝返りだった。
それからの1週間でのゆの動きは日に日にバリエーションを増し、うつぶせのまま腕を伸ばして上体を上げるのはほぼおへそまで上がるようになったし、そのままお尻を後ろに引いてヨガの猫のポーズみたいになったり、うつぶせで開脚して、腕を突っ張って上半身を立ててみたり、仰向けで足を折って踏ん張って、ブリッジ手前みたいな状態までもっていったり、よくわからないけどとにかくいつのまにか移動して、遠くにあったウエットティッシュを何枚も引き出してティッシュまみれになっていたり、ソファの脇に挿しっぱなしの、あおの吸入器のコンセントに絡まっていたりして、だんだん悪戯盛りに近づいているのだった。
思えば手術をしてから4ヶ月だ、まだたったの4ヶ月だけど、はるか昔のことに思える。のゆはふにゃふにゃした赤ちゃんみたいな体で「元気に」なって、体重が入院前の体重にもどるのに2ヶ月以上かかって、そのまま1歳の誕生日になって、そうして、やっと5キロを超えた。その間地道に地道にのゆは、ごはんを食べ続け、(食事のたびに、律儀に鶏肉や魚を20グラム、朝はバナナと高タンパク質のヨーグルトにきな粉、機会があればおやつにおいもやかぼちゃ…)気づいたらずいぶん、重たくなった。その数ヶ月を振り返ると、毎日のちいさなできごととして口に運び続けたたべものが、のゆの体の中に降り積もって行ったのが見える気がする。それはわたしに、充実、という言葉を思い起こさせる。
そうしてのゆはよく笑い、怒り、遊び、おどける、楽しげなこどもになった。1歳になったとき、療育先の他のどの子よりもふにゃふにゃと赤ちゃんぽいまま0歳を卒業してしまって落ち込んだわたしが、いまは何も気にならなくなったのは、でも、のゆがめざましく成長したとか、他の子に追いついたからというわけではない。相変わらず誰よりも小さくて、おすわりしている大きく見えるおんなのこがのゆと同じ月齢だったりするけれど、それでもやっぱりのゆは、0歳の赤ちゃんとは違う、のゆなりの、1歳になった、とわかるからだ。そしてのゆの体が、日々が、感情が、それはそれは、充実していると、のゆのかおをみると、わたしは思うのだ。