わたしのおっとは、ひどい小児ぜんそくだった。だから、昨夜あおが咳がひどくて泣きながら胸を上下させて寝ていた時、義母の判断は早かった。着替えと保険証と、昼間小児科でもらった薬をもち、私があおを抱いて、タクシーに乗り込む。のゆのいる病院が、このへんの夜間救急病院だ。いつもは記名して入る夜間入り口で、救急できましたというとそのまま入れてくれた。
だいたい病院着く頃って気が紛れて少し良くなるのよね、という義母のことばどおり、あおは、だいぶ意識もはっきり、病院を物珍しそうに見回して、あれなに?あれなに?といつも通り鼻から抜けるような幼児の高い声であちこちを指差していたけど、それにも飽きてどうにもならなくなったころ、わたしのスマホで写真を見せることにした。動画だとなお喜ぶかと思い音を消してビデオを見せる。画面の中で、かりんとあおが台所の床にぺたんと座って足をバタバタさせたり、腕を上げて笑っている。何かの振り付けなのだけど、音を消しているのでなんだか全然わからない。つぎはパジャマ姿の2人がテレビの前で踊っているビデオ。あおの腰のふりがすごすぎて、わらってしまう。確かこれは、みんなでハリーポッターの映画をみていたとき。ものすごく深刻な試合の前の場面なのに、入場の音楽にあおがノリノリになって、あまりに見事なスウィングだったので、映画を止めて動画を撮ったのだった。あおがソファーに突っ伏して、その髪の毛をのゆの小さな手がひっぱっているビデオもある。さいごはのゆの、まんまるな顔での満面の笑みだ。
音がしないファミリービデオは、まるで古い無声映画時代のプライベートフィルムを見ているようだ。こどもの動きが早いのも、昔のフィルムのコマ送りを連想させる。ちょっと照明を落とした病院の待合室で、画面の中のファミリービデオだけが、きらきらと晴れた午後のような光を放っていて、なんだかもうこれを見ただけで、わたしはすごくとくべつなものを見たような気持ちになっていた。