バスを降りると、ランドセルを背負ったちいさなおんなのこが、バス乗り場の金網ごしに指をのばして、ハルジオンの花が綿毛のようになっているのをそっと、散らしていた。ただ無心に、たんぽぽの綿毛を吹くほどの勢いもなく、そっと指を伸ばしていた。わたしには彼女がかりんにみえる、きっとかりんもあんなことをして歩くことがあるだろう。そして、もしわたしが、帰りに寄り道をしたかときいたら、してない、というだろうし、立ち止まって何かに触ったりしたかときいても、してない、というだろう。嘘をつくのでも隠すのでもなく、ほんとうに気にも溜めずに、したことだから。わたしが、歩道の端の敷石の線をなんとなく眺めて歩いたことを、誰に聞かれても、やったこととして答えないように。綿毛になったはながあったら指をのばす。まるで息をするように自然に。
早く気をつけてお帰りね、とわたしはその子に言いたくなる。気をつけてと言っても何を気をつけるのかわからないだろうけど、誰にもかどかわされず、無事に家のなかにはいるのだよ、と。
実際そんなことを言ったら彼女を怖がらせてしまうからわたしは何も言わずに通り過ぎるけど、どうぞ、すべてのおんなのこたち(だけではなくすべてのこどもたちだけど)、無事に家にお帰り、ね。