多摩動物園は、あちらこちら工事中で、目の前に見えている休憩所まで行くのにおそろしく遠回りをしなくてらならず、あまりにも!とおもったけれど、その山の上にそびえて真っ白く新しげな建物はまるでギリシャの丘の上に神殿があるような風情だった。たぶん、たくさんの白い柱のせいで。そしてその途中の道ではだだっ広い運動中にキリンがたくさん固まって歩き回っているのをみることになるので、それはそれで贅沢な回り道だった。こちらからわざわざキリンをみるためだけに迂回することはなかなかないだろうけど、そうするとその時のキリンたちは自分たちのある高台のすぐ下にいて、キリンたちの全貌はよく見えないのだ。
丘の上にたどりつくと、その新しい建物はピカピカのガラス張りで、中には営業していないフードコーナーのカウンターと、どうやら稼働している冷水が出る機械とコップがあって、整然とテーブルが並び、いすの背もたれはシマウマやキリンの模様だった。トイレも授乳室もま新しくまっしろで、そして誰もいなかった。まるでまだオープンしていない、作品も並んでいない美術館みたい。
のゆに授乳をしておむつをかえて外に出ると、動かないバスの乗り物であおとかりんがきゃっきゃっとはしゃいで遊んでいた。二階を見にいっていたらしいおっとがもどると、上もなにもないと言ってあおをトイレに連れていった。
ねーね、きてきて。と、のゆの口調でわたしはむすめを呼ぶ。かりんは飛んできて、3人で真っ白な建物の横で、丘の上からキリンを見た。キリンたちは変わらず一群にかたまって、右へ、左へとゆっくりあるき、その中にはほかのキリンのはんぶんくらいの大きさの、こどものキリンも2頭いた。ゆらゆらと彼らは、歩いていた。丘の上から5月の風に吹かれてキリンの群れを眺めるなんてとても不思議なかんじだ。静かで、動物園にいることを忘れそうなキリンの丘だった。