わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という。

21トリソミー、ダウン症を持つ三人目のこども、のゆりとの日々。きょうだいブログ『あおとわたし』(https://aoinotediary.hatenablog.jp/)も始めました。

すみれ、おんなともだちたち

むかしからのともだちであるマヤがアクセサリーショップを出店するというので、雨の上がった午後、のゆを抱っこ紐に入れたまま、渋谷まで足を延ばしてヒカリエに行った。マヤがつくる、ほんものの花を樹脂でコーティングしたあでやかなアクセサリーたちを、もう何年もまえから見て見たかったのだった。あれもいい、これもいいと一つ一つみていたら、のゆがいきなり、咳き込み出した。それも、何か詰まってます、たいへんです、というくらいの猛烈な勢いで、やんではまた咳き込み、休んでは咳き込み、おじさんみたいな声を出してうなって咳き込むのでさすがにだんだん心配になって、マヤが、ベビー休憩室に行く?と何回目かに聞いてくれたときに、それでどうにかなるものかわからなかったけれど、とりあえず行くことにした。場所を聞くと、当然のようにお店を隣の人に頼んで、荷物もつよ、とマヤは言い、わたしは、あ、ついてきてくれるんだ、と、自分でもびっくりするくらいなぜかとても安堵した、それはなんでだろうと不思議なくらい。会ったのも数年ぶりだというのに、わたしの中には、わたしが髪を三つ編みをしていた、マヤが大人びたショートボブにしていた、ふたりとも、紺色の制服を着ていた、わたしは背がちいさくて彼女は体つきもおとなびて背もわたしよりずっと高かった、小学生の帽子なんて早々に、似合わなくなっていた、あの頃の時間がそのままに保存されていて、突然瓶のふたがあいてあふれてきたみたい。2人でエスカレーターをくだり、ヒカリエなんて数年ぶりに来たとか、中が複雑で全然わからないよねとか他愛もないなしをしていると、ついたのは広くてきれいな多目的トイレだった。うーん、休憩室はまた上にあるみたいだけど…とマヤは言って、でもあまり時間もないのでとりあえずおむつだけ取り替えることにする。初対面なのにおしり見られちゃったね〜、と笑いながらマヤとふたりで、のゆを寝かせておむつをかえた。おむつをかえて、また抱っこすると、のゆはケロリと落ち着いてしずかになった。おひるにたべた焼き魚定食の小骨が…て感じの咳だったね〜、とマヤは言って、何時間も前に、どろどろのおかゆを食べただけなんだけどなあ、とわたしは言った。売り場にもどると店番してくれていたとなりのお店の人たちが、大丈夫?大丈夫?とみんなして、のゆを覗き込んで聞いてくれた。

 

散々まよったすえ、わたしはビオラの小さな花を使ったピアスを選んで買った。ビオラの花びらはうすむらさきで、むかし、リョウコというわたしの親友がファッションの専門学校に入ったときに作ってくれた、すみれ柄のシャツによく似ている。その布は、下北沢の北口の駅前にあったうなぎの寝床のような布屋で、ふたりで、選んだものだった。その日からしょっちゅう、わたしはそのピアスをつけている。マヤに話しかけながら、リョウコにも話しかけている気がする。わたしのなかにはたくさんの、瓶が、ならんでいるんだろうとおもう。