わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という。

21トリソミー、ダウン症を持つ三人目のこども、のゆりとの日々。きょうだいブログ『あおとわたし』(https://aoinotediary.hatenablog.jp/)も始めました。

ハイハイへの道のり

ハイハイ達成まで道のりは、細かい細かい、変化のつみかさねだった。こんなことを覚えているのは今だけだと思うので、記録しておこうとおもう。

 

そもそものゆは、仰向けのままぐるぐる回る、背這いの一種と言える期間がとても長かった。それと寝返りを組み合わせて移動するので誤差も大きいというか、目的のものにぴったりつくわけではなく、なんとなくその辺まで移動して、あとは手足を伸ばしてなんとかする、という具合だった。(その頃から、同じ9月生まれの幼馴染のIちゃんは、恐ろしく早いスピードの匍匐前進のようなずり這いで移動していた。それを尻目に仰向けでごろごろするのゆは、ほんとうに、赤ちゃんぽくみえたものだった。)

 

わたしのつけた記録に「のゆが、自力で体をはこんでうごくようになった。2月初めくらい」という書きかけの文章がのこっていた。手を前に出して体をひきずる、いわゆるずり這いのような動きが始まったのが、その頃らしい。最初は、右手だけをうんと伸ばしてお尻をひだりにひねって、足を縮めて伸ばして、あおむしのように動いていてたが、すぐに、右の足で床を捉え、押してすすむようになった。右だけとはいえ、床を足裏で蹴り、手のひらで体を支えているのは、良さそうな点だった。

 

両手が前に出るようになるのか見守っていたところ、一週間の間には、両手を同じように前に出して両足の膝を曲げ、両足の足裏で床を蹴って前に進むようになった。最初はよほど欲しいものがある時にしかやらなかったが、そのずり這いをすぐに駆使して、家の中のあちこちにのゆは出かけるようになった。

 

ずり這いがじょうずになったー!と喜ぶもつかのま、風邪で体調をくずし、ゴロゴロしているうちにやらなくなり、開脚して手の力でお尻をまえに運ぶ、いざりがはじまった。いつもみてもらうY先生には、いざりを覚えるとこれしかやらなくなるから、見かけたら阻止!と言われてしまう。でも、それまでずり這いの細かい進化を観察していたわたしは、のゆは、すぐにまた次の動きを獲得するのではないか?と内心、おもっていた。しかも、どんなにゆっくりでも、必要な発達をきちんと追って、変化しているようだ、と。それはわたしの直感というか、確信めいたものだった。

 

その後、勢いよく手で体を押してすべりながら後ずさり、波が返すように勢いよくまたこちらに、全力の笑顔で向かってくる、という遊びパターンが生まれたとき、手をまえに着き足を後ろにしたまま上半身をあげて、体を引きずって進んでくるようになった。これはお尻歩きよりも、下半身を後ろにしたまま進んでるのでハイハイに近いのではないか?!まだ足で蹴るには至っていないけどきっとこれは次につながるに違いない、とわたしはひとり、ときめいた。

 

そのころは、ハイハイポーズをさせて体を支えて歌に合わせてゆっくりゆらしたり、そのまま足をぐっと曲げて手の近くにつかせて、前に進むという動きを練習したり、机の上やわたしのふくらはぎやピアノの椅子を使って腹ばいの様々な「筋トレ」を続けていたが、そのうち時々、一人でハイハイポーズでじっとしていることがでてきた。まだ進むことはしないけど、体勢を保てるようになったのは、体幹と腕がだいぶ強くなったに違いなかった。

 

その後、ハイハイのように見える前進を三歩くらいして、足を開脚して座るということが一週間くらいつづいて、そのたびにわたしは「これはプチハイハイではないのか」と思いながらも、急ぐのはやめようと心に刻みすぎたのか、「ハイハイはまだ遠いはず」と思い込んでいたのだった。

 

それから数日。5月19日の朝、のゆが、和室からパタパタと手をつく音をさせて、起き出してきた。見ると腰が上がっていてハイハイの形をしていた。6歩くらい。でも、すぐ開脚で座ることもなく、その姿勢を保ったまま私たちをみていた。家族が目撃した、初、ハイハイだった。その日は潮干狩りに連れて行ってもらうために、かりんもあおいも、送っていくやすも、みんな早起きして居間にいた。わたしが、「のゆが、ハイハイで起きてきた!」というと、かりんがわあー!と拍手をし、眠くてぼんやりとパンを食べていたあおも、つられて拍手をした。そして、箍が外れたように、のゆのハイハイは日に日に距離を伸ばしていった。

 

いま、のゆは、長い距離だと勢いよくハイハイし、目的物につくときには「座ろう」とする、「座ろう」とすると足が開いて、お尻が後ろにつく形で開脚ですわる準備がはじまる。だから、のゆのようすをみていると、のゆの頭の中でなにが起きてるか、手に取るようにわかる。目的のものを見つける、見つけて、取ると決めた瞬間に足が開いて上がり、お尻はそれを乗り越えて床につく準備をする、そして、わたしとしてはあまり好ましくない開脚ポーズになる。短い距離で目的物につくときは、はいはいせずに、開脚のままお尻をひきずる、いざりですます。思うがままに、使い分けている。

 

すぐに新しい動きに変化してしまうのゆだから、これから高ばいになったりする可能性もあると危ぶんではいる。立ちたいという気持ちも強くて、ソファにしがみついて立ったり、わたしの体によじ登ってつかまり立ちしたりもしている。でもなるべくその前に、少しでもハイハイをして体を鍛え、立つよりは膝立ちで遊ばせようというのが今のPTの宿題だ。ひとまず筋トレは卒業した。まだ先に夢見ていたものを達成し、わたしは少し気が抜けている。家では訓練めいたものをする時間がぐっと減った。またそのうち次の課題が見つかるだろうけど、つかの間、わたしはおやすみをもらっている気分だ。