平岩さんが管理職になって、毎回のPT指導ができなくなったと言って後任の先生と初めて会った翌日、のゆが急に、立とうとするようにわたしにつかまって足をのばしたり、足をのばした四つんばいポーズをしたりするようになった。足をのばしたハイハイは「高這い」と言って、それは健常の子でもやる子はいるけれど、ダウン症の子の場合、足を曲げて力を入れることが苦手なので、比較的よくみられる。突っ張り棒のように足を使うと立てることは立てても、足を突っ張って歩いてしまうこともあると言われるので、できればやっぱり、高這いではなく、ハイハイをしてほしい。まさかのゆがそんな活発な段階に突然進もうとするとはおもわず、油断していたのでわたしはすっかりあわててしまう。それでも、ふっと新しい動きを知り、実行し、また繰り返そうとするのゆをみていると、誰が教えなくてもそうやって体を開発していくのだ、にんげんてすごい、赤ちゃんてすごい、と感動することは止められない。でも足は伸ばさないでほしい。と、わたしは、身もだえしているのだった。
新しい先生は上野さんといって、小児の体に相当詳しいと言う、テンポの速い、アグレッシブなおんなの先生だった。今までやったことがない、階段でのトレーニングを初めてやった。階段を使うと膝を曲げて力を入れる練習になるからハイハイに繋がる!という。家ではマットレスを使って、やってみることになる。
小さいものをつまむことはできるかと聞かれて、つまんでいると答えたけど、先生が観察すると、まだ人差し指と中指が分離せず、3本指でつまんでいると指摘された。一方で、クレヨンの殴り書きがすごいうまい、まだ点々を描くくらいかと思ったのに、と盛んに言われる。クレヨンは、かりんやあおといっしょに紙に向かうことがあったし、いろんな遊びをやらせてくれる教室で、お絵かきボードを使うこともあったので、「やったことある」からというのがすべてではないかともおもったけれど、それとも、そんな機会がなくともいつかクレヨンを握るとなぐり描きをするというのは、やっぱりプログラムされているんだろうか。
わたしの体調不良からのゆの体調不良、兄姉の春休み、新学期と、最近、家での練習がなかなかできずにいたので、またがんばろう!と改めてはりきろうとしている、四月の半ばである。