わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という。

21トリソミー、ダウン症を持つ三人目のこども、のゆりとの日々。きょうだいブログ『あおとわたし』(https://aoinotediary.hatenablog.jp/)も始めました。

手の記憶

のゆは、体が小さく力が弱いのがわたしのいちばんの気がかりなのだけど、咀嚼嚥下、つまりものを食べたり飲み込んだりする練習だけは、比較的順調で、最近は柔らかいものを舌と上顎で押しつぶして噛んで飲み込むことができるようになったし、その時はちゃんと口を閉じているので(ダウン症の子は舌が出がちだったり、口を閉じて咀嚼するのが苦手なことがある)、わたしは見るたび感動している。哺乳瓶はあまり上手くならなかったけど、大きなスプーンをよこにして水分を飲む練習はだいぶうまくなったので、ちいさいコップをつかうことになった。おちょこでもいいと言われたけど、家にあったガラスのテキーラグラスをつかってみたらちょうど良いサイズ。半透明の曇りガラスに、林と星空が刻まれている、北海道のお土産だ。とうめいだと、口元も水面も見えるのでいい具合。量が多いとむせてしまうので、ほんの少しだけタイミングを合わせて慎重に、水分を口に入れて行く。流し込みにならないように、のゆの上唇が下がって来たところで、ほんのちょっと。スプーンに慣れるにはずいぶん時間がかかったのに、コップは少しすると考えなくても手が動くような感じがして、ふしぎだなとおもっていたら、もしかして、あおにも同じようにコップでお茶を飲ませていたのだった。

 

とはいえ、早くから託児も頼んでいたあおが、哺乳瓶を飲めなかったとは思えないのだけどどうしても、思い出せない。過ぎた子育てのことは忘れるとみな口々に言うけれど、時々こんな風にいくら考えても思い出せない記憶の欠落があって、びっくりする。でも、手は勝手に小さな口にお茶を飲ませて行くので、これはもう、手の記憶としか言いようがない、わたしの記憶はあたまには居場所がなくて手に宿ってしまったのだ、と思い始めている。