雨の水曜日、のゆを連れてヨガに行った。先生の家でのレッスンにのゆを連れていくのは2回目、先生は、ヨガマットとタオルを畳んで上にフリースの毛布をかけたのゆのベッドを用意してくれていた。
その日の朝、抱っこ紐の中ののゆは、わたしが歩くたびに上下にゆれながら、きみどりいろの傘を見て、きゃっきゃっと声をあげてわらうくらい機嫌が良かった。レッスン中もわたしの隣でおとくいの左向きに転がって、おもちゃをなめたり、足をこちらにのばしたり、時々笑ったりしてたのしげに過ごしていたけど、レッスン終盤おなかが空いたのか唐突に泣き出した。先生が抱いても泣き止まない。するとガラリとドアが開いて、先生のお母さんであるおばあちゃんが、そこには腕をこちらに突き出しているのだった。さいきん人見知りするからよけいに泣くのではないかと思いながら様子を見ていると、のゆはおばあちゃんの抱っこでふっと泣き止み、そのままおばあちゃんはドアを閉めて、出て行った。ほんの一瞬のことだった。あまりの鮮やかさにわたしたちは唖然とし、笑い出し、先生はのゆのお気に入りのタオルの羊を拾い上げて、おもちゃは〜?と、届けに行って、「いらないわよね〜そんなの〜」というおばあちゃんののゆに話しかける高い声で追い払われて、苦笑しながら戻ってきた。
レッスンの終わり、クールダウンのポーズでわたしたちが寝転がっていると、あたりは静かで雨の音がして、扉の向こうの通りを歩く大学生の声が時々聞こえては、過ぎていく。その合間の静けさの中で、低い不思議な声がきこえてきた。
いいこだねー
おおきくなるんた゛よー
け゛んきになるんた゛よー
それはのゆを抱いているおばあちゃんの、低い、祈りをかけるような声なのだった。祈りのような、呪文のような。雨の森で、のゆは良い魔女に会ったんだ。そして良い魔女は呪文をとなえた。魔法をかけることはできない良い魔女は、ただひたすらに、のゆのために、呪文を唱えてくれたのだ。